番外編『Long Long Distance』3

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 しかし峻介は気にする様子もなく、あらわになった肩に、薄い布越しの胸元に、音を立ててキスを落としながら性急に言葉を返してくる。 「気にしなくていい。いつも言ってるだろう。僕はこの匂いが好きなんだ」 「そ、それって、変……」  変態だ……とは言えなかった。天下の峻さまに、これほど相応しくない言葉もないだろう。しかも、そのギャップがいつも漣をたまらなくさせるのも事実なのだ。 「や……だっ――あっ……」  タンクトップをめくり上げられ、汗の塩辛い味がするであろう胸の尖りを舐められ、音を立ててしゃぶり上げられて、漣は真っ赤になった。すかさず歯を立てられ、痛痒いようなその感触に、あっという間に腰砕けになる。  ああ、なんかもう、頭ん中壊れちまいそうだ……と思う。  夢にまで見た恋人に、こんなにも激しく求められているのに、すぐに応えるわけにはいかなくて、どうすればいいかわからない。  漣にとってもそれは、待ち望んでいた刺激に違いはないのだ。  会えない間、その手を、その唇を何度も夢に見た。本当ならば抵抗などできるはずもないのだが……。  だけど今は困る。この汗臭いゴト着で、それに、こんなところで……。いや、ゴト着はまだ、今日は外で働いた時間が短い分、いつもほど汚れてはいないのがせめてもの救いだったが、この場所は本当に困る。  当然ながら、すぐそばにある玄関ドアの向こうは外だ。こんなところで達かされたら、今の自分はどんな声を出してしまうか分からない。それは……どう考えても、かなり困ったことに違いなくて……。  そんなことまで想像してしまい、漣は真っ赤になった。俺、何考えてんだ。これじゃ、そうされるのを待ってるみたいじゃないか。 「漣、声のことなら、気にしなくていい」  不意に動きを止めた恋人に、心の中を読まれたように囁かれ、漣は小さく飛び上がった。 「この部屋は突き当りにあるんだから、誰も前など通らない。少々声を出したところで、簡単には聞こえないよ」  そんな言葉を、からかうような甘い声で耳元に吹き込まれ、背筋にぞくぞくと痺れが駆け抜けて、それだけで既におかしな声が漏れそうになる。困ったことに今の自分は、何をどうされてもたまらなく感じてしまうようなのだ。
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