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それから2人でシャワーを浴び、ベッドの上でもう一度抱き合った。
大志は夏休み最後の日ということで、学童保育から遠足に出かけていて、いつもより少し帰りは遅い。幸い……と言うべきだったが、その少しばかりの余裕がむしろいけなかった。思わず止まらない勢いになりかけ、ぎりぎりの時間になって、2人は慌てて身支度を整える。
「あれ? 峻介、帰ってたのか?」
玄関で出迎えた峻介の顔を見るなり大きな瞳を輝かせた子供は、少し見ないうちにすっかり日に焼け、ふわふわした髪は逆に色あせて、やんちゃな少年といった感じになっていた。わずか半月の間に、ずい分逞しくなったようにも思える。
「ただいま、大志。君は少し大きくなったんじゃないか?」
「そんなわけねーだろ……って、うわっ!! やめろ峻介」
ためらいもなく小学2年生の子供を抱き上げた峻介に、このところ急速に大人びつつある大志は抗議の声を上げる。
「やっぱり、少し重くなったぞ」
「いや、だからそんなわけねーって……」
「あ、ずるいぞ城築さんだけ。大志、父ちゃんにもたまには抱っこさせろ」
ようやく下ろしてもらえたところをつかまえようと冗談半分に伸ばされた父親の手から、大志は慌てた風に逃れた。
「な、なんだよ父ちゃんまで。2人ともちょっとはしゃぎ過ぎだぞ」
大人びた風にぶつぶつと呟くその表情が、少しだけ嬉しそうに緩んでいるのが可愛い。
漣もそう思ったのだろう。再び手を伸ばして、奥の部屋に行こうとする息子をすかさず捕らえ、今度こそ有無を言わさず、ぎゅっと抱きしめた。
子供の年齢と共にべたついたスキンシップをしなくなっていたこの親子にしては、珍しいことだった。確かに漣も、いつになくはしゃいでいたのかもしれない。
結局とても買い物になど行く余裕などなく、2人にご馳走を作るという当初の目的を果たせなかった峻介だったが、買い置きの食材で夕食を整え、久しぶりに3人で食卓を囲んだ。
愛しい恋人とその子供と過ごす静かな日常に戻って来られたのだということを、ようやく実感する。情けないことに彼は、涙がじわりと視界に滲みそうになるのを、幾度となくやり過ごさねばならなかった。
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