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大志が風呂に入っている間、漣に手伝ってもらって荷物の片づけをした。スーツケースには2人への土産がどっさり詰まっている。荷物になるだろうから後から送るとスタッフには空港で言われたのだが、早く渡したくて持ち帰ってきたのだ。
「き、城築さん、ちょっと買い過ぎなんじゃ……」
チーズにワイン、北欧のマグカップ、イギリスの紅茶、漣が好みそうなパンクなTシャツに帽子。大志にはお菓子やバッジや各国の小学生向けの美しい洋書。大きなスーツケースから際限なく出て来る土産の数々に、漣が戸惑いの声を上げる。
「重かったろ? ……てか、けっこう、金かかったろ」
ためらいがちに尋ねる漣に、峻介は思わず苦笑する。確かに、普段は倹約が趣味のようになっている自分にしては、尋常でない買い物の量だ。
しかし仕方がない。どの国の店に行っても、2人の喜ぶ顔が目に浮かび、ついつい買い込んでしまうのだ。決して惜しくはない出費であった。
「ああ、それから、これは……」
峻介はふと思い出し、スーツケースではなく手荷物として持ち歩いていたビジネスバッグを開けた。
「一緒に仕事をしたクルーの人たちからも、君と大志にお土産を預かっているんだ」
「え? 俺たちに?」
漣にすれば思いがけないことだったのだろう。驚きを隠せない表情で、峻介が差し出したずっしりと重い包みを受け取る。
彼らが漣のために選んだそれは、スイスの老舗ブランドのチョコレートの詰め合わせだった。
漣は意外に甘いものに目がなく、特にチョコレートが大好きで、力仕事に糖分補給が欠かせないこともあって、いつも必ず職場に携えてゆく。旅の途中、何かの折に峻介がそんなことを話したのを、彼らは覚えていてくれたのだろう。
「な……、なんか、もったいねーな」
きれいな青い缶に詰められた様々な形のチョコレートに、漣は少し困ったようにつぶやきながらも瞳を輝かせている。その表情が、たまらなく可愛い。
恋人のこんな表情が見られただけでも、スタッフの皆には、深く感謝……なのだが。
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