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「それから、漣……。これは大志に、ということなんだが……」
ためらいがちに峻介は言って、皆からもらったもうひとつの土産をバッグから取り出す。
透明な袋とシックな茶色のリボンでパッケージされたそれは、ロンドンを舞台にした童話の主人公として有名なクマの、小さなぬいぐるみだった。
同い年の子供たちより大人びた少年である大志のことを考えれば、正直こちらは絶妙なチョイスとは言い難い。
愛らしいとしかいいようのない、赤い帽子をかぶった小さな毛むくじゃらのクマを見て目を丸くする恋人に、峻介はあわてて説明する。
「大志がもう小学生の男の子だということは皆に話したはずなんだが、僕が……可愛くてしょうがないというような話ばかりしていたからだろうな。どうも、イメージが間違って伝わっていたようだ」
漣は小さく吹き出し、言った。
「城築さん、どんだけ大志のこと、可愛い可愛い言ってたんだよ。なんかわかるよ。これ見てたら」
そうして笑って言葉を繋げたのだった。
「俺は嬉しいよ。いや……大志がこれ喜ぶかどうかはわかんないけどさ。あんたの職場の人たちが、俺の息子のためにこんな土産買ってくれたこと、すげえ嬉しい」
一瞬にして胸がいっぱいになった峻介が、思わず恋人を抱きしめようと手を伸ばした時、風呂場から大志の声がした。
「父ちゃん、ごめん、パンツ忘れちまった。持ってきてくんないかなー」
「まったく、あわて者だな、あいつは……」
漣は苦笑し、立ち上がる。
「なんだよ、パンツぐらい。父ちゃんだったら、ないならはかずに出てくるぞ」
「そ、それはやばい、父ちゃん……」
た、確かにそれは、やばい……風呂場から聞こえる豪快な親子の会話に我知らず顔を赤らめながら、峻介はソファの上に置かれた2つの土産に再び目をやる。
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