番外編『Long Long Distance』4

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 これらの土産を彼は、帰りの飛行機に乗り込む直前の、慌ただしい時間の中で受け取ったのだった。  2週間を共にしたスタッフとの突然の別れに戸惑いながらも皆に暇を告げていると、息を切らせて走ってきたアシスタント・ディレクターの女の子に、その2つの包みを手渡されたのだ。どうやら他の荷物と一緒にどこかに預けてあったのを、大急ぎで取りに行ってくれていたらしかった。  無論、大志にと言付けられたクマのぬいぐるみには、一瞬微かな戸惑いを覚えないでもなかったが、何よりもその気持が嬉しく、胸を熱くしながら峻介は深く皆に頭を下げた。  そうして頭を上げると、驚いたことに見送りの者全員が目に涙を浮かべていた。  仕事の間中強面を通していた髭面のディレクターですら、肩に掛けたタオルを目に押し当てていて……。 「よかった、先生、これで明日には彼氏さんに会えますね」  既に号泣状態だったADの女の子がそう言ったのを皮切りに、峻介は苦楽を共にしたTVクルーに取り囲まれ、涙ながらに別れを惜しまれたのだった。  そして皆、それぞれに口にしたのが、「よかった」「本当に、よかった」という安堵の言葉で……。  そこまで思い出したところで、峻介ははっとした。  どうして、気づかなかったのだろう。彼らがあんなに必死になって、自分のために代わりの飛行機を探してくれたのは、決して、自分が「お偉い先生」だったからじゃない。  愛しい恋人の元に帰れなくなってしまった自分に、心から深く深く同情してのことだったのだ。  にわかに恥ずかしく、そして申し訳ない気持になり、彼は思わずひとり、頭を抱える。  思えばよほど自分は旅の途中、漣や大志の話ばかりをしていたのだろう。確かに漣の言った通り、この2つの土産を見ればわかるような気がする。  いや、もちろんそれは、皆が心からの興味を持って聞いてくれていることがわかったからこそであって、そのあたりは決して間違えていないつもりだ。いや、しかし、それにしても……。  いつの間にか、あの旅を共にした人たちの誰もが、こんなにも深く、漣や大志を思う自分の気持に共感してくれていたのだ。
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