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番外編『Long Long Distance』おまけ
そして、大志がテレビのスタッフからもらったクマのぬいぐるみのその後だが……。
案の定、彼はその土産を心から喜んだ様子ではなかったが、それでも少しの間、せっかくだからとランドセルにぶら下げて登校していた。父親に似て義理堅い子供なのだ。
祖母の静子が買ったブランドものの紺色のランドセルに、青い洋服を着たクマのぬいぐるみという組み合わせは、確かに映えていなくもなかったのだが……
しかし、それから1週間も経たないうちに、そのクマは大志のランドセルから忽然と姿を消すことになる。
もしや苛めにでも遭って取り上げられてしまったのではと顔色を失くした峻介と漣が問いただしたところ、彼は少しばかり申し訳なさそうな顔で答えたのだった。
「よくわかんねーけど、あれってなんか有名なクマなんだって? クラスの女子で、すげえ欲しいって言う子がいてさ。俺が持ってるよりいいんじゃねーかって思って、あげちまったんだ。……駄目だったかな?」
上目遣いに尋ねる息子に、しばらくの空白の後、ためらいがちに答えを返したのは漣だった。
「い……いや、それで正解だったと思うけど……。でも、お前はその子のこと、どう思ってんだ?」
大志の瞳に、いぶかし気な色が浮かぶ。
「父ちゃん、俺はクマの話してんだぞ。意味わかんねーんだけど……」
心底わからないといった表情で問いを返した子供を見て、峻介と漣は顔を見合わせ、密かに安堵の息をついた。
とはいえ……。
その女の子は果たして、本当にそのクマのキャラクターが好きだったのか。
あるいはそれが、他ならぬ大志の持ち物だという理由で欲しがったのか……。
そのあたりは、いまだに謎のままである。
ーENDー
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