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峻介とのファーストコンタクトは、大志だった。乗り始めたばかりのコマ無し自転車が暴走したところを、助けてもらったのだ。
だけど実を言うと、その時の印象はあまり鮮やかではない。
子供の記憶はすぐに更新されるものだし、今と比べるとかなり落ち着きのない子供だったあの頃の彼は、しょっちゅう同じようなことをしでかして、周囲の大人に助けてもらっていたからだ。
あの時君は誰に言われなくてもすぐに謝ってくれたと、峻介はいまだに感心してくれるのだけれど、何のことはない、ただ単に当時の大志は謝り慣れていたというだけのことなのだった。
ただ、
「なんか、面白れー人だったな……」
そう言って遠ざかる後姿を見送った父のまぶしそうな横顔だけは、なぜだか鮮明に記憶に残っている。
その後、驚くほど自然に自分たちの生活の一部となった峻介のことを、大志もまた自然に受け入れていたのだが、深く考えてのことではなかった。そう深く考えなくても、大志にとって彼は、接するのが楽しい大人ではあったし……。
そんな大志が何かを悟ったのは、鳶職人である父が職場で転落事故に遭い、昏睡状態に陥った時だったかもしれない。
大志にとって父は、単なる保護者というだけではない。厳しい日々をチームを組んで乗り切ってきた相棒であり、自分の半身とも言える存在だった。そんな父が、このまま目覚めないかもしれない……そう思うだけで胸が空っぽになった。
その空虚と不安を共に引き受けてくれたのが、峻介だったのだ。
峻介は何も言わず何も聞かず、ただ大志のそばに居て、淡々と日常の世話をしてくれた。だけど自分と同じ気持ちを彼が分かち合ってくれていることが、なぜだか痛いほどわかった。
そうして、確信したのだ。父ちゃんは絶対に死なないと。
その後、父を目覚めさせてくれたのは峻介だったのだと、大志は信じている。その絆の強さに呼ばれ、父は戻って来たのだと……。
好きっていうのはああいうことだろと大志は思う。だから、自分と彼女の間で揺れるクマのことは気にせず、この女の子とは、これまで通りの関係を保つことにしている。
そんなことを考えながら彼女の話に相槌を打っていると、背後でバラバラと足音がして、ふたりは、数人の男子に取り囲まれた。
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