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「お前今日、早く帰るんだってな。ずるいぞ」
真ん中にいる、内田という同じクラスの男子に、そんなことを言われる。
いや、ずるいも何も、親の判断でいつもより早く学童保育から帰ることに特に問題はないと思うのだが……っていうか、なんでこいつがそれを知ってる?
とはいえ、そんなことを言ってもしょうがない。大志は立ち止まり、口を開く。
「親戚……の家でクリスマスパーティーがあるんだ。父ちゃんが今日は早番だから、迎えに来るって」
「ふーん、あのオカマの父ちゃんが迎えにくるのか?」
憎々し気に内田少年がそう口にすると同時に、背後の少年たちが「やーいオカマ」などと口々に判で押したように幼稚な揶揄を始めるものだから、うんざりする。
だいたい、父は女装しているわけでもないのだから、「オカマ」でもなくて……いや、もしそうだったとしても失礼だろう、侮蔑語だぞ。なんてことを考えてしまうのは、やはり政治家である峻介の影響かもしれない。
とはいえ、世の中には侮蔑語だからこそ喜んで口にしたがる連中がいるのも現実で……。小さくため息をつき、再び歩き出しながらやり過ごしていると、
「いい加減にしなさいよ!!」
隣の少女が、これまた判で押したようなタイミングで抗議を始めた。
「あんなカッコいいお父さんが、オカマなわけないじゃないの。バッカじゃないの? あんたたち」
いや、ありがたいが、微妙に趣旨がずれている。それに女子のこうした抗議は、たいてい火に油なのが常で……。
案の定、内田少年はみるみる不機嫌な顔になる。
「はあ? なにお前、こんなやつの味方してんだ。だいたい天宮、クリスマスパーティーとか言ってるけど、お前んちみたいな変な家にサンタなんかくるのか?」
その言葉に、少しばかり場の空気はざわついた。背後の少年たちも、ちょっと困ったように顔を見合わせている。
けっこうなことを言われているにもかかわらず、大志もまた怒るよりまず困った。
小2ともなれば、サンタクロースの存在を本気で信じている者、まったく信じていない者、あるいは疑いを持ち始めている者と、いろいろ入り混じっている。
こうした話題はかなりデリケートなのだ。
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