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内田、信じてるんだ……と思う。もちろん大志は、子供の夢を壊すようなことはしない。
「うちはふつうに来ないけど、内田んちには来るんだな」
そう、さらりと答えておくにとどめる。
大志自身は、物心ついた時から、サンタの存在を信じたことなど一度もなかったが。
大志には母親がいない。いや、いるらしいのだが、どこにいるのかわからない。当時はまだ十代だった、父というにはあまりにも若すぎる父親が、赤ん坊の頃から懸命に大志を育ててくれた。
子供を大過なく生きさせることに精一杯だった父に、サンタクロースの存在を息子に信じさせる余裕などあるはずもない。
クリスマスの思い出といえば、若い父がそれでも一生懸命に賄ってくれたささやかなご馳走とケーキに、祖母が手渡してくれるプレゼント。でも、それだけで十分に幸せだった。
大志は、サンタクロースの夢など必要としない子供だったのだ。
もっとも去年の冬は生まれて初めて、クリスマスの贈り物が、朝目覚めると枕元に置かれてあったのだが……。
もちろんそれが、誰がくれたものであるかを大志は知っている。知っているからこそ、本当に嬉しかった。
物思いにふける大志の傍らで少しばかり空気が盛り下がったところで、校舎に着いた。家に帰る少年たちはほっとしたように、校舎脇の裏門から駆け出してゆく。
学童に残る3人は校舎に入る。着替えのために華原さんとは隣り合った教室に別れた。大志も何だか、ほっとしてしまった。
「うっす、天宮」
「さみーな、天宮」
「天宮、宿題教えてくれよ」
様々な学年の男子がざわめく教室に入ったとたん、大志はあれこれ声をかけられる。逆に、内田少年は少し心もとなげな様子になった。
無理もないかもしれない。クラスでは常に取り巻きを連れて威張っている彼だが、母親の職場復帰とかで学童保育に入って来たのは、つい1ヶ月ほど前。彼にとってこの場はまだまだ完全アウェイだ。
ひとりになったとたん、元気を失くしてしまうのも、彼のような少年にはありがちなことで……。
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