番外編『聖夜』1 ― 天宮大志―

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 とはいえ油断はならない。この新しい場所でも仲間を作るべく彼が動き始めていることを、大志は知っていた。  いや、仲間を作るのは一向にかまわないのだが、クラスでのように徒党を組んであれこれ言われるようになったら、ちょっと面倒くさいなと思う。  2年生で同じクラスになってからほどなく、この少年は大志の家庭のことでくだらない揶揄を投げてくるようになった。  彼の母は、授業参観で「峻さまとお父さんは、同じ部屋で寝ているのか?」と尋ねてきた母親だ。初めはそんな親の価値観にまんま影響されてのことだったのだろうと思う。  しかしその後、大志がクラスの皆に推されて学級委員になったことや、どうやら彼の気になる女の子であるらしい華原さんと親しくなったこと。さらにはその後の授業参観で「気になることがあれば僕に聞いてください」と峻さまスマイルと共に名刺を渡された母親が、あっさりこちらに寝返ってしまったことも気に入らないらしく、とにかくいろいろこじらせて今に至っているようなのだ。  まあ、気持はわかる。これまで自分が正しいと信じてきたことを親からひっくり返されて、どうすりゃいいんだって思うのも当然だろう。  だいたいこいつはまったく単純というか融通がきかないというか、四角四面な奴なのだ。さっき大志が早く帰ることを「ずるい」と言ったのも、決して言いがかりなどではなく、本当にそう思ってのことに違いなくて……。  それだけに、厄介なことだった。  どうしようかと思う。  「峻さまスマイル」はあいつに効きそうにないし、最終的には父ちゃんのひと睨みって方法もあるのだろうけれど、父ちゃんはあくまで最終兵器にしたい。だいたい、あいつのあの性格だとよけいにこじらせてしまいそうな気もするし。  やっぱ、気がすむまで言わせてやるしかないのかな……小さくため息をつく。
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