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「俺が2年のキャプテンやんなきゃならないんだけど、サッカー苦手で、困ってんだ。お前、代わりにやってくれないかな」
もちろん大志も、ベストを尽くすつもりではいた。だけどあくまでにわかでしかない自分のサッカー知識ではどうにも心もとない。どうせなら上手い奴がキャプテンになればいい。内田なら自然にみんなついて来そうだし、まあ、ちょっと単純なところとか融通のきかないところは、自分がフォローすればいいし……。
そうすれば、優勝も夢じゃないかもしれない。そう思うと何だかわくわくしてきて、我知らず言葉も熱を帯びる。
「内田、めちゃくちゃサッカー上手いし。絶対にお前の方がいいと思う。俺も副キャプテンになって何でも手伝うし……」
「はあ? 何言ってんだ。なんで俺がお前なんかと……」
わずかな沈黙の後、相手は言葉を返してきた。しかし自尊心をくすぐられるのか、若干、目が泳いでいる。押せば落ちないこともない、そんな風情だ。
もう一押し……と口を開きかけた時、
「大志――っ」
と、グラウンドの向こうから父の呼ぶ声がした。
しまった、迎えの時間をすっかり忘れていた。大急ぎで帰り支度をしなくてはならない。
ブルーのスカジャンにダメージ・ジーンズ、淡い色の髪を風になびかせた若い父親の登場に、先生たちが色めき立っている。小学生の女の子たちまでが、なんだかザワザワしてる。いつものことだが、どうにも気恥ずかしい。
「じゃあ、内田、考えといてくれよな」
そう言って大志は校舎に駆け出した。内田少年はといえば、どう反応して良いのかわからないらしく、ただ目を白黒させていた。
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