番外編『聖夜』1 ― 天宮大志―

7/8
前へ
/425ページ
次へ
「俺が2年のキャプテンやんなきゃならないんだけど、サッカー苦手で、困ってんだ。お前、代わりにやってくれないかな」  もちろん大志も、ベストを尽くすつもりではいた。だけどあくまでにわかでしかない自分のサッカー知識ではどうにも心もとない。どうせなら上手い奴がキャプテンになればいい。内田なら自然にみんなついて来そうだし、まあ、ちょっと単純なところとか融通のきかないところは、自分がフォローすればいいし……。  そうすれば、優勝も夢じゃないかもしれない。そう思うと何だかわくわくしてきて、我知らず言葉も熱を帯びる。 「内田、めちゃくちゃサッカー上手いし。絶対にお前の方がいいと思う。俺も副キャプテンになって何でも手伝うし……」 「はあ? 何言ってんだ。なんで俺がお前なんかと……」  わずかな沈黙の後、相手は言葉を返してきた。しかし自尊心をくすぐられるのか、若干、目が泳いでいる。押せば落ちないこともない、そんな風情だ。  もう一押し……と口を開きかけた時、 「大志――っ」  と、グラウンドの向こうから父の呼ぶ声がした。  しまった、迎えの時間をすっかり忘れていた。大急ぎで帰り支度をしなくてはならない。  ブルーのスカジャンにダメージ・ジーンズ、淡い色の髪を風になびかせた若い父親の登場に、先生たちが色めき立っている。小学生の女の子たちまでが、なんだかザワザワしてる。いつものことだが、どうにも気恥ずかしい。 「じゃあ、内田、考えといてくれよな」  そう言って大志は校舎に駆け出した。内田少年はといえば、どう反応して良いのかわからないらしく、ただ目を白黒させていた。
/425ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2747人が本棚に入れています
本棚に追加