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 ぱりっとした三つ揃いのスーツに薄汚れたヘルメットという奇妙な出で立ちの議員たちに混ざって、峻介は建築中のビルの現場に足を進めた。  頭上には薄青い空と、もやもやとした感じの雲が広がっている。梅雨の晴れ間には違いないが、微妙な天気だ。何もこの梅雨時に工事現場の視察などしなくてもと思うが、日々殺人的なスケジュールで動いている父には、他に空いている日がなかったらしい。  今日は父の主催する「土木・建設安全対策推進議員連盟」の勉強会の日だった。  高層ビル建築現場での労働に、どのような安全対策が成されているかを実際に見て回り、担当者から話を聞くことになっている。  国会には「研究会」や「議員連盟」などといったものが無数に存在する。志を同じくする議員たちがテーマごとに寄り集まった、言わば「有志の会」である。  ほとんどすべての議員はいくつもの連盟に所属していて、視察や勉強会に忙しい。例えば労働問題に関心の深い父の将孝は、他にも「サービス残業撲滅議員連盟」や「非正社員の地位向上を目指す議員の会」などの議員連盟を主催し、同じような趣旨の連盟にも積極的に参加し、そこからいくつかの法案を立ち上げている。  多忙な峻介は日頃そうした活動が極端に少なく、それがまた瑞田の小言の種にもなっているわけだ。しかし何十もの所属連盟を誇らしげに経歴に掲げていても、実際に活動しているのかどうかわからない議員もいる。量より質だ、と割り切って考えることにしていた。  秘書時代、父について何度も足を運んだ建築現場だが、今日は本当に久しぶりだ。  国会やテレビの現場と違い、形あるものを造る場所というのは、独特の開放的な活気がある。
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