番外編『聖夜』1 ― 天宮大志―

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番外編『聖夜』1 ― 天宮大志―

 二学期最後の日、終業式とホームルームを終えて教室を出た天宮大志は、グラウンドを突っ切って学童保育の校舎へと向かう、いつもの道筋を歩いていた。  曇り空の校庭には、ちらほらと雪が降り始めている。  寒いけれど、ちょっとわくわくしている。今日はクリスマス・イブだ。彼にとって、人生で一番楽しみなイブかもしれない。 「天宮くん、いっしょに行こう」  同じクラスの華原という女の子が小走りに彼を追ってきた。大志は足を止め、追いつくのを待ってやる。  1学期、2学期とクラスメイトの圧倒的推薦によって、大志はクラスの学級委員を務めた。  その相方、というか、女子の方の学級委員を共に務めていたのが、この女の子だった。(実は彼女がそのポジションにつくにあたって、熾烈な女子同士の水面下での戦いがあったことを大志は知らない)。  放課後も学童で一緒で、まあ、親しいと言えなくもない間柄だ。  今日の終業式のことなどを楽し気に話しながら、ツインテールを揺らして大志の隣を歩き始めた華原さんのランドセルには、その動きに合わせるように、毛むくじゃらの小さなクマのぬいぐるみが揺れている。乞われるままに大志があげたものだ。  彼にとってもこれは人から貰ったものだったから、かなり迷ったが、本当に欲しそうだったので、自分が持っているよりはと思ってつい、あげてしまった。まさかそれが波紋を呼ぶとは思っていなかった。  どうしてあげたのか、あの子のことが好きなのかと、大志はその後、うんざりするほど繰り返し女の子たちに訊かれることになった。「あの子は天宮くんのことが好きなんだよ」といった言葉も、耳にタコができるほど聞いた。(実はそう言った女子たちもまた大志を憎からず思っていることを、もちろん彼は知らない)。  だけどこの子が自分を好き、というのはちょっと違うと大志は思っている。  だって彼女が自分に向ける空気は、例えば自分の父と、その恋人である城築峻介の間のそれとは、まったく似ても似つかぬように思えるからだ。  父と峻介から、自分たちが互いに「好き」だという関係であることを告げられたのは、大志がまだ5歳の保育園児だった頃だ。  あの時ふたりは柄にもなく、ひどく緊張していた。だけど大志は言われるまでもなく、初めからそんなことはわかっていた。
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