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『カフェKOKORO』の店内はかわいかった。少しくすんだパステルカラーで統一された内装と、あちこちに飾られた外国風の動物のオブジェやフェイクグリーンが洒落ている。白いシャツの腰にエプロンをきりっと巻きつけた若い女の店員に案内され、ゆかりたちはミントグリーンに塗られたテーブルの席に着いた。
久々のランチにこの店を選んだのは、ゆかりの大学時代の友人、翔子であった。札幌駅直結のショッピングモール内にあるレストラン街は交通の便の良さやバラエティに富んだ店数の多さで人気があり、今日も平日の昼間だというのにどこもよく混んでいる。
本当は隣の『自然食バイキング』と書かれた店に行ってみたかった。店の前に置かれた看板の、道産の栗かぼちゃと十勝なんとか牧場のモッツァレラチーズを使ったサラダとか、羊蹄山の湧き水豆腐に汲み上げ湯葉、などなどのメニューが魅力的だったが、翔子が子連れなので遠慮したのだ。翔子の娘のまりちゃんは八ヶ月。赤ちゃんを連れて料理を取りに行くのも大変だろう。その点、このカフェは赤ちゃん用の椅子が用意されており、赤ちゃん用ジュースのサービスもあって「子連れママにやさしい」のだそうだ。
翔子がまりちゃんをピンクの赤ちゃん椅子に座らせ、二人はいそいそとメニューを開いた。ボリュームたっぷりのパンケーキ、色とりどりのフルーツのタルト、洒落た木のプレートに乗ったサンドイッチなどの写真が所狭しと載っている。
「うわ、全部かわいい! 」
「かわいいよね。パンケーキが美味しいし、インスタ映えするよー」
ゆかりも翔子も今年四十歳になった。世間的には中年の入り口にさしかかった年齢かもしれないが、まだまだ気持ちは若い。女子がかわいいものやオシャレなものにときめくのは仕方がない。
あれこれ悩んで、結局ゆかりは「ストロベリーマシュマロパンケーキ」、翔子は「ブルーベリーヨーグルトパンケーキ」を注文した。もともと昼食どきに甘いものを食べるつもりはなかったのだが、可愛くフルーツの飾られたパンケーキたちの写真を見たら注文せずにはいられなかったのだ。しかも、それなら「レモンとリコッタチーズのパンケーキ」が美味しそうだと思ったのだが、なんとなく薄い色のパンケーキに白いチーズクリームが乗っている絵面が地味な気がして、苺の赤い色とマシュマロクリームのピンク色がかわいい「ストロベリーマシュマロ」を選んでしまった。
飲み物だって、ゆかりは甘いものを食べるなら冷たいウーロン茶かなんかがいいのだが、つい写真に惹かれてかわいいマグカップに入ったカフェラテを選んでしまった。翔子も紫色の濃淡の色合いがかわいいから「ブルーベリーヨーグルト」を選んだのに決まっている。
ランチの時、つい味や栄養価よりも写真映えを意識してしまうのも女子の悪い癖である。
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