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夏休み(ファウスト)
王都から馬で一日。閑静な町から更に森へと入っていくと、その屋敷は見えてくる。
湖の畔に建てられた白に青が映える屋敷は、懐かしさと共に僅かな痛みを伴う。町から湖の畔に出て、そこから三十分ほど馬を歩かせるとようやく、屋敷の前に到着する。
「ファウスト様、ようこそ」
「久しいな。アリアの様子はどうだ?」
恭しく出迎えた四十代の男は、にっこりと笑みを浮かべる。この屋敷を取り仕切る執事で、彼の妻はここのメイド長をしている。
他にもメイドや従者などが数人と、侍医がここに住み込んで働いてくれている。
「アリア様は心待ちになさっておりますよ」
「騒がせてしまったか」
ほんの僅か心配になる。妹のアリアは心臓が弱い。幼少の頃よりは体力もつき強くなったが、激しい運動や極度の緊張はよくない。
屋敷に入り、そのまま彼女の待つ談話室へ。そこに入ると、ますます母に似て綺麗になった妹がいた。
「兄様!」
「アリア」
立ち上がり、走り出したそうなのを押さえてゆっくりと近づいてきたアリアは、そのままファウストの胸に抱きつく。
愛らしく人懐っこい笑みを見せる彼女は、姿こそ大人びたがやはり妹のままだ。
「背も髪も伸びて、美人になった」
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