夏休み(ファウスト)

3/9
前へ
/15ページ
次へ
 そう言った彼女の胸元には、贈ったブローチがある。ランバートと一緒に選んだものだ。 「ねぇ、兄様」 「ん?」 「これを選んだのって、本当に兄様ですの?」  疑うように黒い瞳が見つめる。ファウストはそれを見ないように顔を背けた。 「兄様、本当の事を言った方がよくてよ。私、ルカ兄様から色々聞いているんですから」 「色々?」 「ランバート様って、仰るのでしょ? 兄様の恋人さん」  思わぬ名前に飲みかけたお茶が詰まる。咳き込みながら胸元を叩くファウストに、アリアはコロコロと鈴を転がすように笑った。 「とても素敵な人だって書いてありましたわ。どうして今日、一緒に連れてきてくださらなかったの? ルカ兄様も知っているのに、私ばかり内緒だなんて悲しいですわ」 「いや、ちが…」 「ルカ兄様の見立てだと、陥落寸前? あと一押し? 結婚秒読み?」 「アリア!」 「慌てて否定するなんて、脈ありですわね」  なんて言えばいいのだろう。どうして弟妹はこんなにも結婚だの恋人だのを望むのだろう。ようやく落ち着いたファウストは眉根を寄せた。 「まぁ、そんなに性急な事は言いませんわ。兄様の頑固も、分かっているつもりですもの」 「そんなに頑固か?」     
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

324人が本棚に入れています
本棚に追加