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そう言った彼女の胸元には、贈ったブローチがある。ランバートと一緒に選んだものだ。
「ねぇ、兄様」
「ん?」
「これを選んだのって、本当に兄様ですの?」
疑うように黒い瞳が見つめる。ファウストはそれを見ないように顔を背けた。
「兄様、本当の事を言った方がよくてよ。私、ルカ兄様から色々聞いているんですから」
「色々?」
「ランバート様って、仰るのでしょ? 兄様の恋人さん」
思わぬ名前に飲みかけたお茶が詰まる。咳き込みながら胸元を叩くファウストに、アリアはコロコロと鈴を転がすように笑った。
「とても素敵な人だって書いてありましたわ。どうして今日、一緒に連れてきてくださらなかったの? ルカ兄様も知っているのに、私ばかり内緒だなんて悲しいですわ」
「いや、ちが…」
「ルカ兄様の見立てだと、陥落寸前? あと一押し? 結婚秒読み?」
「アリア!」
「慌てて否定するなんて、脈ありですわね」
なんて言えばいいのだろう。どうして弟妹はこんなにも結婚だの恋人だのを望むのだろう。ようやく落ち着いたファウストは眉根を寄せた。
「まぁ、そんなに性急な事は言いませんわ。兄様の頑固も、分かっているつもりですもの」
「そんなに頑固か?」
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