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「責任ある立場の者が、恋だの愛だのにうつつを抜かしてはいられない。恋人は作らない。なんて言って、五年ですもの。頑固も頑固、大頑固ですわ」
確かに、言われるとそうなのだろう。
五年前、騎士団を立て直す時はその気持ちだった。恋だ愛だと言っている場合ではなかったし、一刻も早く形を整えなければ国の軍事に直結だった。忙しかったし、他に気を配る余裕もなかった。
だが、今は違う。あの当時に比べて人は増え、育った。過分な余裕はないが、心境的には落ち着いてきた。それでも、この時の誓いを引きずっている。
「そんな所ばかり、父様に似ているのね」
呆れたようなアリアの言葉に、ファウストは深く眉根を寄せた。
父に似ている。この言葉はファウストにとって何より屈辱だ。
母を捨て、自分たちを置き去りにした。母が死んだのに、助けてくれなかった。十年も一緒に暮らした兄弟からただ一人離され、それなのに何一つ庇ってはくれなかった父。
あの人に似ている。たまに言われる言葉は意外とファウストには刺さった。
「そんな顔をしてはいけないわ。父様はいい人よ?」
「そんなこと…」
「だって、母様が不幸そうな顔をしたことがありました? 辛そうに泣く事はありました?」
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