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問われる。けれど、思い出せないのだ。笑っていたと思う。悲しそうな顔をしたことはない。明るくて、優しくて、とても元気な人だった。
でもそれは、勝手な記憶の操作ではないのか? 辛い思い出を消してしまったんじゃないのか?
ファウストの記憶の中では、いつも母と自分とルカとアリアだけ。そこに父の記憶はない。
「それよりも兄様、私にも聞かせてくださいな」
「なにをだ?」
「ランバート様のことです! どんな方なのですか? とても綺麗な方だって、ルカ兄様は言っていたけれど。あぁ、やっぱり実物が見たいのに」
アリアが乙女の顔だ。ファウストは少し遠くを見ながら、それでも妹の熱心なお願いには勝てなかった。
「そうだな……色んな顔のある奴だ」
「色んな顔?」
「基本的には、優しくて面倒見のいい奴だ。人の苦痛に心を痛め、助けを求める相手を見捨てる事ができない。利益などなくても、手を貸さずにはいられないんだ」
下町の事もそうだ。あいつは利益など考えていなかった。ただ、親しくなった者を守りたいという優しさからだ。あいつは、頼る者の手を振り払えない。
「少し、心配だ。優しすぎるから、無理が過ぎるんじゃないかと思う」
「兄様?」
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