第一章 ここは探偵専科

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「第一章 ここは探偵専科」冒頭より抜粋  休み時間の喧騒をかいくぐって、次の授業が行われる教室へと向かう。入学して早三週間、この学園での暮らしにも、だいぶ慣れてきた。  学園へと続く桜並木も、校庭のあちらこちらに植えられている桜も、すっかり葉桜になっている。学園の背後に広がる山々の緑も濃さを増して、季節は春から初夏へと移り変わりつつあった。  予鈴が鳴った。 「うわ! 急げ!」  急ぎ足で廊下を奥へと進む。長い廊下の一番奥、すこしレトロなドアノブがついたドアの前で足を止めた。  この教室へ来るのも、もう何回目だろう?   いまやすっかり見慣れたドアノブをつかみ、回してみる。  ……開かない。どころか、ドアノブすら全く回らない。  広い学園の中で、いちばん辺鄙な目立たない場所にあって、入るにはちょっとした技量のいる教室は、今日もやっぱり簡単には通してくれなかった。  僕は専科用の分厚い教科書の入ったバッグを足元に置き、鍵開けセットをジャケットの内ポケットから取りだした。 「今日の仕掛けは……っと」  ドアの仕掛けは、毎度違う。これもまた授業の一環なのだそうだ。鍵穴にスッと差しこんだ金属の棒で、中を探る。ややあって、カチ、ちいさな音と共に鍵が開いた。 「よし、成功!」  フフン、気を良くして鼻をうごめかす。意気揚々とドアを開けた瞬間、スッと横から影が割りこんだ。 「ラッキー! サンキュ、ルカ」  元気よく跳ねた金茶色の頭がドアの隙間をくぐりぬけようとする。僕は、素早く片足をヤツの前に差し出した。 「へ? うおっ!?」  ガスッ!  まんまとヤツは引っかかり、ドオン、派手な重低音を響かせて床に激突した。 「……ッ、イテテ。何すんだよ!?」 「それは、こっちのセリフだ」  涙目で、こちらを振り返るタクミを冷たく一瞥し、言い放つ。コイツは、日和拓海(ひより たくみ)。その名前のとおり、状況を見るのに敏く、要領が良い。悪く言えば、日和見主義……なんだけど、なかなか面倒見が良く気のいいヤツで、いまのところコイツ――タクミといちばん仲が良い。  それが故の愛のムチだ。そんなにうらめしそうな顔で僕を見るなよ。
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