第一章 ここは探偵専科

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「ルカ、あんた、今日も容赦がないなあ~」  キャハハ、と笑って、コテコテの関西弁でそんなことを言うのは、同じ専科の柚木結衣(ゆずき ゆい)。明るく人当たりの良い彼女は、クラスのムードメーカー的存在だ。肩までのふんわりとした栗色の髪を揺らし、キラキラとした大きな瞳をクルリと回して笑う姿は愛嬌がある。 「だよな、ひでーよ、ルカ」 「お前がズルをするからだろ。愛のムチだ、ありがたく思え」  ううう、と、泣き崩れるマネをするタクミに、フンと鼻を鳴らして背を反らせる。 「鬼か!」 「鬼やな」  タクミとユイが綺麗にハモったところで、 「あらあら大丈夫ですか? 大変な音がしましたけど……」  のんびりとした声が教室の奥からしてきた。声の主は、今川綾乃(いまがわ あやの)。ゆったりとした話しかたとは裏腹に、どうやらとても驚いているらしい。ちょうど読んでいたのか文庫本を手にしたまま、涼しげな切れ長の瞳を、まんまるに見開いている。  アヤノは文庫本を閉じると、すらりと立ちあがり、すべるようにタクミに近づいた。派手な音が上がったわりには、タクミが平気そうな様子を見て取ると、ホッとした顔で、 「タクミさん、よかったらどうぞ」  綺麗にアイロンのかかったハンカチを、そっとタクミに差し出した。制服についた汚れを、これで払えということらしい。 「うう、アヤノちゃんは優しいな。ありがと、気持ちだけ受け取っておくよ」  タクミは、いたく感銘を受けた様子でホロリとした笑顔をアヤノへ向けると、持ち前のしなやかな体のバネを使い素早く立ちあがった。それから、さりげなく脇へかがみこんでいるアヤノへと手を差し伸べる。タクミは、こう見えてなかなか女子に優しい。 「ありがとう」  アヤノはニッコリと素直にタクミの手を取ると、優雅な物腰で立ちあがった。その拍子に、腰まである黒髪が流れ、つややかな光を放つ。 「どういたしまして」  アヤノに気遣われたのが嬉しかったのか、タクミは鼻歌を歌いながら制服についたホコリを軽く手で払った。 「こんなもんか。ふう、類まれなる運動神経のおかげで助かったぜ」  ほら、このとおりイケメンも無事、と、キザなウィンクをかましてみせるタクミに、 「……お前、あと二、三回くらいアタマ打ってろ」  僕は深々と溜息をついて首を横に振った。
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