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「ルカ、あんた、今日も容赦がないなあ~」
キャハハ、と笑って、コテコテの関西弁でそんなことを言うのは、同じ専科の柚木結衣(ゆずき ゆい)。明るく人当たりの良い彼女は、クラスのムードメーカー的存在だ。肩までのふんわりとした栗色の髪を揺らし、キラキラとした大きな瞳をクルリと回して笑う姿は愛嬌がある。
「だよな、ひでーよ、ルカ」
「お前がズルをするからだろ。愛のムチだ、ありがたく思え」
ううう、と、泣き崩れるマネをするタクミに、フンと鼻を鳴らして背を反らせる。
「鬼か!」
「鬼やな」
タクミとユイが綺麗にハモったところで、
「あらあら大丈夫ですか? 大変な音がしましたけど……」
のんびりとした声が教室の奥からしてきた。声の主は、今川綾乃(いまがわ あやの)。ゆったりとした話しかたとは裏腹に、どうやらとても驚いているらしい。ちょうど読んでいたのか文庫本を手にしたまま、涼しげな切れ長の瞳を、まんまるに見開いている。
アヤノは文庫本を閉じると、すらりと立ちあがり、すべるようにタクミに近づいた。派手な音が上がったわりには、タクミが平気そうな様子を見て取ると、ホッとした顔で、
「タクミさん、よかったらどうぞ」
綺麗にアイロンのかかったハンカチを、そっとタクミに差し出した。制服についた汚れを、これで払えということらしい。
「うう、アヤノちゃんは優しいな。ありがと、気持ちだけ受け取っておくよ」
タクミは、いたく感銘を受けた様子でホロリとした笑顔をアヤノへ向けると、持ち前のしなやかな体のバネを使い素早く立ちあがった。それから、さりげなく脇へかがみこんでいるアヤノへと手を差し伸べる。タクミは、こう見えてなかなか女子に優しい。
「ありがとう」
アヤノはニッコリと素直にタクミの手を取ると、優雅な物腰で立ちあがった。その拍子に、腰まである黒髪が流れ、つややかな光を放つ。
「どういたしまして」
アヤノに気遣われたのが嬉しかったのか、タクミは鼻歌を歌いながら制服についたホコリを軽く手で払った。
「こんなもんか。ふう、類まれなる運動神経のおかげで助かったぜ」
ほら、このとおりイケメンも無事、と、キザなウィンクをかましてみせるタクミに、
「……お前、あと二、三回くらいアタマ打ってろ」
僕は深々と溜息をついて首を横に振った。
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