第一章 窃盗罪で起訴します

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「前田君、どうしたの?」  サクちゃんが尋ねる。 「会社法演習の発表のはなしあいー」  彼は手頃な円形のテーブルの上に、六法などを置きながら答える。  講義タイプの授業もあるにはあるけれども、それ以外の少人数生の演習の授業では対外、生徒が数人でグループを組んで問題の答案を作り、発表する。 「あれ、次、治君達? じゃあ、そろそろ準備しなきゃ」  治君たちの次なのだ。あー、めんどー。民法演習の発表もあるのに。前から三人ずつ一組で順番に回しているから発表の週が被るのだ。もうちょっと、最初の班わけのときに考えるべきだったと思う。後期は気をつけよう。 「で、杏子ちゃん達はなんの話してたわけ? 声でかかったけど」 「ひみつー」  言うと肩をすくめられた。 「邪魔がはいったから、サクちゃん帰ろー」  いいながら立ち上がる。 「はいはい。また今度ゆっくりね」  言いながらサクちゃんも立ち上がる。  治君に片手をふり、ラウンジを出る。 「サクちゃんは、いつも通り自習室で勉強して行くの?」  ロー生には一人一つずつ、自習室に机が与えられている。これも学校によっては固定席ではないらしいよく有る予備校の自習室みたいに左右をパーテションで区切られているだけの机だけど、荷物を置きっぱなしでいいというのは、ありがたいことだ。  机はそれぞれ個性があって見ていて楽しい。サクちゃんは机の上に小さいぬいぐるみを一つ置いている。意外性があってちょっと可愛い。他には壁際の席なのをいいことにアイドルのポスターを貼っているやつとか、棚を持ち込んでいる人とかもいる。  あと、某週刊少年漫画誌は結構見かける。 「ううん、今日は用事があるから」 「あ、デートだ!」  言うとサクちゃんは小さく微笑んだ。大学時代からの同い年の彼氏、いいなー。  それじゃあね、とサクちゃんが帰る後ろ姿を見送ると、カードリーダーに学生証を通して自習室のドアをあける。なんで無駄に厳重なセキュリティになっているんだろう。  夕飯は家で食べたいし、電車が混む前に帰りたいから、あたしもそろそろ帰ろう。そう思いながらとりあえず荷物をとりに自分の机に向かうと 「おつかれ」  ヒロ君とすれ違う。ヒロ君は自習室がしまる11時まで勉強しているらしい。えらいなー。 「おつかれさま!」  あたしも微笑みながら返す。  うーん、やっぱりかっこいい!!  
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