第一章 窃盗罪で起訴します

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 世の中、色々誤解があると思う。  よく「あの分厚い六法全書全部覚えるんでしょー」とか言われるが、全部覚えるならそもそも六法全書の存在必要ないんじゃなかろうか。  法学部で勉強するのは、条文の使い方だ。必要なときに必要な条文を使えるように、正しい条文を使えるように勉強する。中学生の英語の授業で、英和辞典のひきかたを教わるようなものかしら。  基本六法と呼ばれる、憲法、民法、刑法、商法、民事訴訟法、刑事訴訟法だけではあんなに分厚いものにはならない。さっきの一般社団法人なんちゃらとか、割とメジャーなところでは道路交通法とか、そういう小さい法律もあの中には入っている。  そして、法学部生は勿論、法科大学院生もそれら全部の法律に精通していない。恐らく、実務家である弁護士達も。  そもそも、新司法試験の試験科目は先ほどの基本六法に+行政法。それから、各々が選ぶ選択科目。  選択科目は知的財産法とか倒産法とかあるけど、あたしは労働法にした。理由は、学部時代の先生がかっこ良かったからっ! イギリス紳士を彷彿とさせる教授だった。イギリス紳士が何かはよくわかんないし、先生日本人だったけど。  選択科目は論文のみだけど、他の科目は択一と論文試験がある。面倒だなー。  当初、合格率八割! とか歌われていたこの制度も、実際のところ合格率三割程度。それでも、旧制度よりは高いんだけど。  ただ、急な合格者の増加で、弁護士はただいま就職難。受かっても、就職する法律事務所が見つからず、すぐに独り立ちすることになる即独や、雇用という形ではなく席だけ置かせてもらう軒弁などが増えている。  おまけに、合格後の研修制度ともいえる司法修習。身分は準公務員で、以前は給与制だったのに、今は貸与だ。奨学金もあるのに、修習時の生活費も貸与になって、借金が多くて、これ以上借りられないからと合格したけど修習に行かない人もいるらしい。  弁護士が儲かるとか、いつの時代の幻想なのでしょうか……。
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