第一章 窃盗罪で起訴します

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「杏子、聞いてる?」  郁さんの言葉に、 「聞いてます!」  慌てて返事を返す。 「じゃあ、どう思う?」  ……さあ? 聞いていなかったから答えられないんじゃない。多分、聞いていても答えられなかった。  あたしは、なんとなーく指定校推薦で法学部に進学して、親に「合格率あがるならローいけば?」とか言われてその気になって、もう少し学生でいられるならいっかーとローにきてしまったくちなので、将来についてはあまり考えていない。  合格率はこれからまたさがるだろうから、あたしが受ける頃にはどれぐらいなのか。それで就職も厳しいとなると、まさにお手上げだ。  あーあ、素直に就活しておけばよかった。と、高校や大学のころの友達が働いているのを見ると思う。そしたら、学生はいいなーっていわれなくてすむだろうし。  微妙に重い空気を抱えたまま、民法の話し合い終了。  みんなすごいよなー、としみじみ思う。サクちゃんだって、高校生のころからずっと検事になりたかったって言っているし、郁さんはそもそも社会人でSEやっていたのに法曹を目指して独学で既修に入ってくるんだもんなー。あたしは、法科大学院制度なかったら、法曹を目指そうとも思わなかったのに。
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