悪魔な君の暖かさ

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「コータと、お母さんのおかげ。今の私が、ちゃんと誰かと話せるのは」  引きこもりながらも、支えてくれる人とともに、少しずつ学校へ戻って。  久しぶりに話す人や、たまにしか会わない母にも、話題は切れることがなくて。  それは、コータが適度に私へと与えてくれた、ぎこちない会話があったからだと想う。 (……あと、たまにコータが漏らしてくれた、私の知らない会話)  コータはたまに、話したことのない家族の昔話や、私の好きだった場所なんかを、ぽろりと漏らすことがあった。  どうして知っているんだろう、なんて疑問の答えは、あの頃にもうわかっていた。  知っている人は、この家で、一人しかいないから。 (……直接、話せないって心配まで、させちゃってたんだね)  私だけじゃなくて、すれ違いになった母も、たまにコータと言葉を交わしていたんだと想う。  突っ込んで聞くとはぐらかされたから、コータも、漏らしてはいけない話だと入力はしていたんだろう。  それでも漏れていたのは、機能のバグか。  それとも……コータが、気を利かせてくれたのか。 (こぼした話が漏らされているとは、母も、想っていないんだろうけれど)  なにせ、コータと話したことはほとんどないって、言っていたこともあったくらいだ。  私には直接言えないようなことも、コータには、話していたのかもしれない。 (でも今は、直接、向かいあえるんだよね)  だから私は、今の気持ちを、母へ告げる。 「ねえ、お母さん。会話って、心を暖めてくれるんだね」  ――もう、コータはいない。  でも、私と母は、ちゃんといる。 「コータは、心も暖かくしてくれたよ。つながりを、忘れずにいられた。……だから、ありがとう」  私の言葉に、母は無言となり、手も止まってしまった。 「……お母さん?」  心配になって見ていると、涙を堪えるように、母は両手で眼を押さえていた。  私は、母がその場で崩れ落ちないよう、落ち着くまで側に寄りそい続けた。
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