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「――君は、悪魔だ」
『いいえ。私はこたつです』
「わかってるわよ」
籠からミカンをとりながら、まじめな答えに不満を漏らす。
あぁ温い。
天国みたいな暖かさに包まれ、口から甘みをほおばる。
「だってもう半日よ? この場所につかまってから」
『香織様の体調に異常はありません。朝の八時十三分より入り始め、現在の十四時十五分まで入り続けているのは、香織様の意思によるものだと想われます』
「違う違う、快適すぎるコータの機能が悪いのよ」
『機能を否定されると、悲しくなります』
泣きそうな人工音声に、私はフォローを入れてしまう。
「……むしろ最高すぎるという。困ったねぇ」
それは感情じゃなくて、ネットワーク上から転送される応答の一種にすぎないのだけれど、どこか申し訳なさを感じる生々しさがある。
ちなみにコータというのは、このこたつに私が名付けた、識別名だ。
――最近のこたつは、開発と応用がどんどん進む人工知能を搭載するまで、進化するようになっていた。
(まぁ、あるのは私の部屋だけなんですけれど)
家のほとんどはフローリングで、パネルヒーターやオイルヒーターを使ってる。
安全性、って意味ではこたつに勝るものはないと想うけれど。
(この抜け出せない感は、危険だけれどね)
……どうせ、出かける友達なんていないし、話す相手もほとんど家にいないけれど。
胸にわいた冷たさが、冬の寒さとあわさりそうな時。
淡々としたコータの声が、耳に届く。
『それと、前々から気になっていたのですが』
「ほう、言ってみよ」
『こたつだからコータという名は、識別の脆弱性が考えられます』
「安直だというのか」
『はい』
「……人間じゃなくてよかったねぇ。空気読めないと、やっていけないよぉ」
そう言う私も、社会の空気を読むのが苦手なのだけれどね。
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