悪魔な君の暖かさ

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 ※※※  ――あっという間に、時は流れて。  ――私は実家から離れた場所で、大晦日を過ごすようになっていた。 「こたつに入ると堕落するの?」  小学生の息子が発した言葉に、私は呆れつつ聞く。 「堕落なんて言葉、どこで覚えたの」  気をつけてるのに、子供はどこからこんな言葉を覚えてくるのかしら。 「んー、クラスの子が話しててさ。入ると、身体がどろっとするんだって」  言葉だけ聞くと、いかにも身体に悪そう。 「でも、遠いおばあちゃん家にしかないっていうから。お母さん、どんなのか知ってる?」 「そうねぇ」  こたつかぁ……。  今のリビングや部屋の作りだと、必要には感じなかったからなぁ。  ――私は、ふと、コータのことを想い出した。 (やばい。あの堕落感、想い出してしまう)  私にも息子にも、確実によくない。  よくないとわかりながらも……あの、足下を包まれる温もりを、もう一度味わいたくなってしまう。 (お正月も、近いしねぇ)  実家にはたまに帰るけれど、顔見せ程度でリターンしてしまう。  たまに長居をしても、家族と一緒にいるから、あの当時の自室には戻らなくなっていた。  片付けなきゃ、と想いつつも、腰は重い。  ――昔の自分と対面するのは、勇気がいるものだから。 (コータ、出してあげようかな)  ただ、理由があれば、再会も楽しくなる。  なにより、ずっと親しくしていたのに、ずっと部屋の片隅で眠らせている。  想いだして急に罪悪感がわいてきたのは、それだけ、愛着があったからだろうか。 「ねぇ。今度、おばあちゃんの家に行った時に、こたつ入ってみようか」 「こたつ、おばあちゃん家にあるの?」 「うん。しかも、とびっきり面白い、ユニークなやつがね」  当時の会話を想いだしながら、久しぶりの再会に、なにを話そうかと想う。 (悪魔、再降臨かぁ)  こたつです、って、また言ってくるんだろうか。  そんなことを考えていると。 「お母さん、にやにやしてる。どうしたの?」  不安そうな顔をする息子に、私は悪魔のような微笑みを浮かべる。 「安心したまえ、君もすぐ、私と一緒になるのだよ」  ――それぐらい、心地よいコータの温もりは、私の身体にまだ残っているみたいだった。
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