【試し読み】先生の娘さん(大山真貴)

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 教師の娘とはどのような気分なんだろう。  ときどき、テレビのニュースを流し見ていて、犯罪を犯してしまった人が厳格な家庭に育ち、親や本人が警官や、自衛官や、教師や、公務員や、そんな『とてもまともな』職に就いていたと報道されるたび、ふと思い浮かぶ顔がある。  おかっぱに切りそろえた髪、ひな人形みたいに上品に整った顔のパーツ。ただその瞳には表情がない。ゴシップが流れ出る赤い唇。  そして、猛禽のように誰かの弱みを探して光る瞳を避け、息を潜めて生活していたあのことのことを。 ※    それは先週、残業を終えて帰宅して、ゆっくり風呂でくつろいだあと、ふとテレビをつけたときのことだった。  画面では、やたら賑やかしの笑い声ばかりが響くバラエティ番組をやっている。  ゲストはほんわかした雰囲気で、最近売れ始めたばかりの女優さんだった。  椅子に腰かけてタオルで髪を拭きながら、ぼんやりと見ていると、不意に見覚えのあるブログが画面に映し出された。  私は思わず身を乗り出す。  『森マリー 宇宙からのLOVE届け!』  私が毎日の通勤電車の中で閲覧しているブログの、お砂糖のかかったケーキみたいなロゴをひとしきりいじったあと、お笑い芸人のMCが女優をからかうように質問を投げかけた。  いったいこの人はなんなの。なにやってる人なの。頭は大丈夫なの?  わたしは我知らず身を固くする。吐く息が浅くなる。  どうか大事な人を傷つけないでほしい。まったくの他人なのに、その若い女優さんを応援するような気持ちで画面を見つめ続けた。そしてまた、尊敬する森マリーさんに、その尖った言葉が届かぬことを祈った。
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