【試し読み】先生の娘さん(大山真貴)

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 彼女、森マリーさんのことは、――なんと説明したらいいんだろう、カウンセラー?  それも違う。  おおぐま座のふくろう星雲M97にいる三人の偉大な宇宙の知恵の象徴、セッケンとブアブル、リカルア――地球人が発音するには難しすぎて、一番似ている音を選べばそういう名前になる――と交信し、いかに生きるべきか、ポジティブなメッセージを伝えてくれる、いま人気のチャネラーだ。  宇宙との交信者である森マリーさんは、顔や姿は見せない(せいぜい、綺麗に髪を巻いた後ろ姿)にしろ、センスのいい私生活と、ポジティブさと自信にあふれたメッセージでもって、インスタグラムで何万人かのフォロワーを得ていた。女性誌にもよくとりあげられているし、人生相談の連載コラムさえ持っている。  彼女は後ろ姿だけでも愛くるしい二人の幼い娘さんと、彼女の価値観を大事にしてくれる旦那様と一緒に都内のどこかで暮らし、そことは別、自由が丘のあたりでヒーリングサロンを開いている。  インスタグラムに更新される写真は、家族旅行で訪れたハワイの夕焼けをバックに、仲睦まじく頬を寄せ合う旦那様とのツーショット(顔はハートのスタンプで隠してある)、左右対称で眠る娘のかわいらしいつま先のアップ、ママ友との有名レストランでの優雅なランチ会のテーブルセット、毎週サロンに配達にくる花屋さんの豪奢なアレンジメント、カリスマスタイリストさんのいる美容室での顔を隠したスタイリング写真など、芸能人顔負けの内容に、数万を数えるフォロワーからのいいね! や賛美のコメントが絶えない。  しかし、そんなことより、私が彼女に憧れるわけは、ツイッターにいつか彼女がしたためたように、すべてを否定された過去がありながらも、前向きに、ただ己を肯定して生きていくために、自信と安定した心を手に入れたいだけなのだった。 (続きは『星のめぐりを読むひとは』にて掲載。全体9800文字)
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