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私は目を疑った。男が向かった先には、制服を着た中学生くらいの少女がベンチに座っていたからだ。男が近づくと、少女はパッと笑顔を見せ、二人は並んでなにかを話しているようだった。
あの二人は一体どういう関係なのだろうか。いかがわしい考えが私の頭の中をめぐり始める。仮に私の想像通りの関係だったとして、こういう時はどうするのが正解なのだろうか。いや、普通に考えれば、あの二人は親子に決まっている。でももしも違ったら・・・
私はもう少し様子を探るため、なんとか声を聞こえはしないかと、二人にばれないように近づいて、お化け屋敷の建物の陰に身を潜めた。しかしながら、近づいたのは良いものの、うさぎの頭のせいで二人の声は聞こえなかった。
そうこうしているうちに、男は突然立ちあがったかと思うと、手に持っていた風船を空に向かって放ち始めた。1つ、2つと空に浮かび上がっていく風船。私は反射的に可愛い我が子達を掴もうとして、思わず建物の陰から飛び出してしまった。
3つ目の風船は中年のうさぎの跳躍力では届かなかったが、4つ目だけは辛うじて掴むことができた。私はこの場の状況も忘れて達成感を感じていると、目の前では男と少女のきょとんとした顔が並んでいた。
「あれ?さっきの風船の・・・?」
男は少し怪訝そうな顔をしていた。咄嗟に私は首を大きく上下に揺らした。そうして今度は首を左右に振って、右手に掴んだ白い風船を男につき返した。
「きっとお父さんが風船飛ばしちゃったから怒ってるんだよ」
少女が笑いながら言う。その言葉を聞いていた私は、二人が親子だとわかり内心ほっとしていた。
「いやー、すいません」
男の方も参ったというように笑いながら謝った。しかし、それもつかの間。一度空を見上げたと思うと、次に見えた男の顔から笑顔は消えていた。少女も心配そうに男を見つめる。そんな気まずい雰囲気を察して、男は再び笑顔を作って話し始めた。「・・・先週、飼っていたペットが死んだんです」
私は微動だにできず、その場に立ち尽くした。
「ついこの前までは、家中をぴょんぴょん跳ねまわっていたのに・・・」
私はなおも動かない。急に被り物の重さがずっしりと肩にのしかかっているように感じた。
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