止まらないモーソー

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毎朝の通学電車で僕が立っていると、いつも前に立つ彼女。もう半年近くになるだろうか。そっと盗み見るが、超かわいい。 僕が電車を降りるために席を立つと入れ替わりに彼女が座るので、まだ話しをしたことはない。ただ、毎朝必ず僕の前に立つのだし、3日前などは視線が合った。きっと彼女も話しをするきっかけを探しているんじゃないかと思っている。 今日はバレンタインデー。恐らく彼女から何かあるに違いない。見るといつもと違うカバンを持っている。席のかわりしなに、さりげなく渡すつもりだな、あれを。 降車駅に着き、僕はいつもよりゆっくりと立ち上がる。彼女は自然な感じでスマホをいじっている。 さぁ、今だよ、・・ん?どうした、・・そのまま座るつもりか? 僕がしばし立ちすくんでいると、彼女はカバンの中をゴソゴソいじりだした。そしてやにわに四角いものを取り出した。僕の胸が急速に高鳴る。だがそんな気持ちをよそに、彼女は参考書に目を落とし始めた。 プシューー。電車のドアが閉まった。 降りそびれた僕の額の生え際に、汗がにじむ。彼女のとなりに座っている太ったおばさんが、かなり冷たい視線をぶつけてきた。 そうだよね。分かってます。いつもこんな感じだし・・。 でも何かを期待させてくれるバレンタインが、僕は好きなんです。 ガタン。 発車の揺れによろめいた拍子に、おばさんの足をしこたま踏んづけてしまった。
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