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それから僕は母さんに頼んで、毎日朝食にブロッコリーを出してもらった。それからというもの、毎朝何度も吐き出しながら、ブロッコリーを無理やりにでも口に詰め込んだ。離れようとしても離れられない。なんだかこれは間違っているような気がした。
そんなある日、雑草が枯れた。僕の腐れ縁になるはずだったそいつは、先にしなしなに腐ってしまった。でも毎日一緒にいたせいか愛着の湧いていた僕は、すぐには捨てられなくて、日課の水やりもしばらくそのまま続けた。
ある日、腐った雑草に水をあげながら、僕は気がついた。植物相手では、僕の一方的な気持ちしかないのではないか。腐れ縁というのは、互いにそうだと思ってこそなのではないのか、と。
そう思って僕は、庭にやって来る野良猫にエサをやった。夢中でエサにありつく野良猫を、思い切り脅かしてやると、野良猫は驚いて逃げ出した。それでも図々しい野良猫は、次の日もエサがもらえると思って、再び庭にやって来た。僕はよく来たとばかりに、用意していたエサを惜しげもなくばらまいて、そうやってエサを食べている野良猫を、またしても驚かせて追い払った。離れようとしても離れられない―きっと、野良猫もそう思っているだろう。
次の日エサをまくと、驚かす間もなく、野良猫はエサを持ってそそくさとどこかへ行ってしまった。
つまらなくなった僕は、エサをやるのはやめて、家へと帰った。その途中、ふと窓ガラスに反射する、僕の顔が目に入った。僕は思わず立ち止まって、窓に近づいて、その顔をよく覗き込んだ。そいつの顔は、つまらなそうにのっぺりとして変化がなく、見ているうちになんだか嫌な気持ちになった。
僕は窓から目を逸らすと、そいつから逃れるように走り出した。曲がり角の鏡で、車の窓で、足下の水たまりで、そいつはどこへでも現れた。離れようとしても離れられない。こいつが僕の腐れ縁なのかもしれない。
腐れ縁―今なら辞書の言ってる意味がわかったかもしれない。そんな風に思っていたある日、辻君から手紙が届いた。内容は・・・ざっくり言うと、今度久しぶりに会わないか―ということだった。
その日、僕は雑草と別れることにした。元々いた道のわきに墓を作って、そこに埋めた。
家に帰る途中、右手に握りしめた銀色のスコップの中に、満足げなそいつの顔が映ってるのが見えた。
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