0人が本棚に入れています
本棚に追加
腐れ縁―その言葉の響きに僕は憧れた。あいつとは腐れ縁でさ―なんていつかそんな風に誰かに言ってみたいものだ。もしそんな風に言えたら、どんなに誇らしいだろう。けれども生憎、僕にはそんな風に呼べる人はいないし、そんな風に呼んでくれる人もいなかった。
腐れ縁・・・〈離れようとしても離れられない悪縁。なかなか断ち切れない好ましくない関係。〉
驚いた。僕が思っていたよりも、あまり良い意味の言葉じゃないみたいだ。しかし、そんな怪しい魅力が、ますます僕を惹きつけた。離れようとしても離れられない・・・そんなことってあるのだろうか?
僕にも腐れ縁ができたらいいのに。僕は父さんの仕事の都合上、もう四回も転校していた。どの学校でも友達はできても、腐れ縁と呼べるくらいの親友はできなかった。一個前の学校で、仲の良かった辻君も、僕が転校してからは二、三度手紙のやりとりをしただけで、今やすっかり音沙汰なしだ。離れようとしなくても離れてしまう。これじゃあ、まるで反対じゃないか。だからもう、今の学校では腐れ縁を探す気も失せてきている。・・・でもそれじゃあいけないと思う。僕はまだ諦めなかった。
それから、僕の腐れ縁を探す日々が始まった。
いきなり人間の腐れ縁を作るのは難しいと思って、まずは植物から始めようと僕は思った。その辺の道を歩いて、雑草を引っこ抜いてきて鉢植えに植えた。名前もわからない、本当にただの雑草だ。なんでこいつを選んだのかと聞かれても、僕にもその理由はわからなかった。でも、それが重要な気がした。
毎日朝起きると、僕は鉢植えの雑草に水をやった。学校にいる間、僕は雑草のことが頭から離れなかった。授業中でも、休み時間に遊んでいても、給食の時も、雑草が元気でやっているか気になって仕方がなかった。学校が終わると急いで家に帰って、のびのびと生きる雑草の姿を眺めた。離れようとしても離れられない。なんだか少し近づいているような気はするが、僕はどこか違和感を覚えていた。
その原因は僕にあった。僕は離れようとしていなかった。腐れ縁には多少の嫌悪感が必要なのではないか。好きなものを嫌いになるのは難しいと思って、嫌いなものを好きになれるようにしようと思った。
最初のコメントを投稿しよう!