レプリカ

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 初夏を迎えるこの街の頭上には白い雲が浮かんでいた。その間から見える空の色はどこまでも青く突き抜けていた。遠くに見える原っぱで五、六人の子供たちがボールを追いかけて遊んでいる。散りばめられた太陽の光がきらきらと子供たちを照らしていた。そのようすを少し離れた木の陰から覗いている少年がいた。  キッドはもうかれこれ一時間近くそうしていた。それは別にボール遊びがしたいわけではなかった。むしろどちらかと言えばボールを蹴るのは苦手だった。それにもかかわらず一時間近くそうしていたのは、自分もあの輪の中に入って一緒に遊びたかったからだ。だから玉蹴りでもかけっこでも川遊びでもその中身はなんでも良かったのだ。ただ皆と一緒のあの中に入って笑ったりしたかっただけなのだ。  一緒に遊ぼう―ただそれだけなのにキッドはなかなか言い出すことができなかった。ぼくも入れて―これでも良いかもしれない。キッドは木の陰に隠れながらそんなセリフを何通りも考えていた。何度も繰り返し呟いてきちんと言えるように練習もした。しかし、いざ行こうとすると、その一歩が踏み出せずにいた。皆の前に出ると思うと、急に足がすくんで動けなくなってしまった。この一時間、そんなことは何度も起こった。誰かがぼくのことに気がついてくれればいいのに。いっそのことボールがこっちに飛んでくればいいのに。楽しそうにはしゃぐ子供たちが羨ましく、そしてその輪に入れないことが悔しかった。遠くから楽しそうな声が聞こえるたびにますますキッドの思いは強くなっていくのだった。 「きれいなちょうちょでも見つけたのかい?」  子供たちを見るのに夢中になっているキッドを背後から呼び止める声がした。キッドは期待して振り返るも、その声の主は近所で変わり者と噂をされている中年の男であった。 「なんだ。博士か・・・蝶なんていないよ」  キッドはがっかりしたようすで答えた。 「おや。じゃあ、なにをしているんだい?」 「・・・なんでもないよ」  仏頂面で答えるキッドの横に博士は腰を下ろした。 「ふー。涼しくていいなここは。おまけに眺めもいい。まったく、今週になって急に太陽が働き始めた。日陰のないところは暑くてかなわん」 「だったらそのもじゃもじゃしたひげ、剃ったらいいのに」  そう言うと博士は声を出して笑った。丸い眼鏡の奥で小石のように黒く小さい瞳がより一段と細くなった。
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