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レプリカが現れて数か月が経ち、この日もキッドは博士の家へ向かっていた。
「こんにちは。・・・あれ、レプリカは?」
勢いよく戸を開けると、なんとも間の抜けた顔をして博士が返事をした。
「ああ、キッドの方か。こんにちは。レプリカならさっき外へ出て行ったよ。すれ違いになったのかな」
そう言ったそばから、再び外へ駆け出そうとするキッドを博士は引き留めた。
「まあまあ、そう慌てるな。どうだいレプリカとは?楽しくやっているか?」
「なにを言ってるんだよ博士。当たり前じゃない。じゃなきゃこんなところ来ないよ」
キッドの言葉で愉快そうに笑っていた博士はそのままの顔で何気なく訊ねた。
「おお、寂しいこと言ってくれるね。・・・それより、最近ほかの子たちとは遊ばないのかね?」
「全然。じゃあもうぼく行ってくるね」
博士の問いにキッドは急につまらなそうにして玄関を飛び出していった。
街の中を走りながらキッドはさっきの言葉を思い出していた。博士はなんであんなことを言うのだろう?ぼくにはレプリカがいるのに。一緒に遊んで、一緒に笑って、なんでも理解してくれる友達ができたっていうのに。今のぼくはなんだってできるんだ。もうほかの友達なんて必要ないじゃないか。たった一人でも信頼できる相手がいればそれで十分じゃないか。
そんな風に考えていると、突然叫び声と共にキッドの体は吹き飛ばされた。道の角でキッドはほかの通行人とぶつかってしまったのだ。前も見ずに走っていたせいだ。ごめんなさい―相手への申し訳ない気持ちと叱られるのではないかという不安でキッドの声は弱々しく震えていた。
「痛いじゃねえか」
その声で顔を上げると、そこにいたのは近所でも悪ガキと評判の子だった。キッドはそれまで話したことはなかったし、むしろ関わらないように避けていた。その少年が今まさに目の前で良い標的を見つけたとばかりに黄色い歯を剥き出しにしていた。
「いきなりぶつかって来やがってよ、なにか言うことがあるんじゃないか?」
「ごめんなさい・・・」
自分の二倍はありそうなその見た目に、すっかり怯えてしまったキッドはなんとか声を振り絞って言った。
「あ?聞こえねえぞ。なにか言ったか?」
少年はいきなり大きな声を出した。その音に驚いてキッドはすっかり縮みあがってしまった。少年の取り巻きの連中がゲラゲラと笑った。
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