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ファウストの母親は愛人だった。ルカの話では愛情に溢れた様子ではあるが、ファウストの認識は違うだろう。愛人の子である彼が、憎い父と同じ事はしないだろう。
「断る口実に、恋人のふりをするんですね?」
要約するとそういうことだ。
別にランバートとしては構わない。世話になっているし、ファウストは本当に困った様子だ。それに、彼が騎士団からいなくなってしまうのも困る。
面の皮も厚いし、装うことも苦手ではない。何より彼がこんなことを頼む相手が自分であるのは、ちょっと嬉しいのだ。
だが、ランバートが口にした途端にファウストは驚いて、次に申し訳無く表情を曇らせる。そして、深く頭を下げた。
「すまない、お前を利用するように」
「あぁ、いいえ」
「何度かあって、断ってもしつこくてどうしようもなくて。過去にも顔だけ出して断り続けているのにまた…」
「あの、大丈夫ですから」
「もう、恋人がいるとか何とか言わないと続くだろうと…誰に頼む事もできずに…」
「本当に大丈夫で、気にしてません!」
本当に悩んだのだろう。心労があまりに窺える様子に同情を超して哀れになってくる。この人をこんなに追い詰められるって、かなりの破壊力だ。
頼りなく、申し訳なく見上げる黒い瞳を見つめ、ランバートは笑う。側に行って、笑いかけた。
「ちょっとだけ、嬉しいです」
「嬉しい?」
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