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「こんな事を頼めるのは俺だけだって、思ってくれたのでしょ?」
そう言うと、黒い瞳が僅かに驚きに大きくなる。揺れる瞳の奥を覗き込むと、ファウストは僅かに顔を赤くした。
「怒らないのか? 大分、失礼だろ」
「全然。まぁ、女装してくれと言われたら少しハードル高いですが」
なんて、冗談みたいに言って笑う。面食らったファウストは、次には穏やかな表情をしてくれた。
「悪い、付き合わせて。不快な思いもするだろうとは思うが、お前の事は必ず俺が守る」
そう言ってくれるだけで、この話を引き受けた対価になるとランバートは思った。
「あっ、恋人なら『ファウスト様』はおかしいですよね? えっと……ファウスト?」
恋人で様って、かなり距離がある。それを思って、練習のつもりで口に出した。
その途端、気恥ずかしさに体が熱くなる。なんだか慣れないし、恥ずかしい。今は目を合わせずに言っているからいいが、これが目を見てとなるとかなり訓練がいる。
だが、見ると自分よりもファウストは顔を真っ赤にしていた。色が白いから余計に赤さが際立つのだろう。耳や首まで真っ赤になっている。
「あの……ファウスト?」
「あぁ、いや! ……恥ずかしいな、それは」
「…はい」
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