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さよなら会の待ち合わせにはまだ三十分早かった。
思い立って、京都駅の屋上へ上る。あいにくの雨模様だけれど、碁盤の目のようにまっすぐだったり、すこしうねっていたりする京都の街を、傘をさして見下ろす人たちもぽつぽついる。
京都タワーはあいかわらず、白くにょろっとしたきのこのように古ぼけたビルに刺さっている。ナチュラルさのかけらもない白さは、舞妓さんの白塗りのうなじみたいだ。
思えば七年前、はじめて大阪の郊外から電車通学で京都に通い始めたころは、電車から見える五重塔や、京都タワーに胸をときめかせ、観光客みたいにきょろきょろしながらこの駅を通り抜けたものだ。
明日にはさよならだな、と思って、私は降る雨の隙間から、遠く御所のほうに目をやった。
ポケットから取り出した携帯には、二通メールが来ている。いっちゃんとみどりちゃんだ。
いっちゃんは繊細な女の子だった。
高校の入学式からそう日の経たないある日、私と同じ塾に通っていた、なんでもかんでもはっきり言ってしまうみどりちゃんが、
「京都の人ってイケズなんやろ」
そう言ったとたん、ワアンと泣き出して、教室中をシン……とさせたほどだ。
みどりちゃんが大物なのは、取り乱したりは決してしないで、
「どうしたん」
と己が原因なことすらわかってない風にいっちゃんの顔をのぞきこんだところだ。
その時私は、今までみたいにこれからも、みどりちゃんのフォロー役になるんだなと悟った。
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