過保護な執事の甘い夜

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 ひと通りの執務を終えて自室に戻ると、デスクの引き出しからトリュフのレシピを取り出し眺めます。お嬢様が(つまず)きそうな箇所に付箋を貼り一言添えていると、レシピが付箋だらけになってしまい、思わず力無い笑みをこぼしてしまいました。  まったく、私は恋路の邪魔をするどころか手助けをしているなんて、どこまでお人好しな執事なのでしょう。ですが、お嬢様が「美味しく作れた」と言って喜ばれる姿を想像すると、助けになりたいと思わずにはいられなかったのです。  それでもやはり、その日はお嬢様にお会いするのを避けるように、一日忙しく動いておりました。彼女が通われている大学からお帰りになった時も、夕食の席でも。辛かったのです。心が張り裂けそうに痛むのです。  ただ一度、「明日の夕刻に材料が届きます」とお伝えし例のレシピをお渡しすると、お礼と共に何かを言い掛けていたようですが、逃げるように(きびす)を返してしまいました。  私の態度の変化にも気づいていらっしゃることでしょう。お仕えする(あるじ)のご家族に不安を与えるとは、執事として有るまじきこと。明日からはお嬢様へのこの気持ちは忘却の彼方へ消し去らなくては。  その後も、お嬢様が部屋を訪ねてくることもなく夜が更けていきました。
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