過保護な執事の甘い夜

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 見えるはずもないカーテンの向こうに思いを馳せておりますと、施錠が外される音に続いて、目の前の重厚な扉が開かれました。 「やあ、立花くん。待っていたよ。よく来てくれたね」  心地良く響くバリトンの声。主人(あるじ)自ら出迎えていただいたことに恐縮しつつも、感謝の気持ちが込み上げてまいります。  玄関口へと誘われながら、求められた握手を交わし、京極様に仕える喜びをひしひしと感じておりました。 「優能な君のことだ。すぐに仕事の方は任せられるようになるだろう。さて、紅茶でも飲みながら契約の細かな話をーー」 「お父さま」  京極様の言葉尻を待たずに掛けられた声。  それはまるで小ぶりのベルを鳴らしたように愛らしく、私の耳をくすぐったのです。 「お部屋の案内が必要でしょう? 私が連れて行ってさしあげるわ」  白いブラウスに清楚なスカート。柔らかく長い髪を弾ませて、螺旋階段を降りてきたその可憐な姿に、私は思わず目を奪われました。  俗世間から隔離された美しさ。彼女はまるで、お伽話から飛び出してきた(けが)れを知らぬ姫のようでした。 「さやか。いやいや、まったくこの子は」 「いいじゃない。それに来てすぐにお仕事の話なんて可哀想だわ」 「まあ、そうかもしれないが」 「私、ちょうどお話相手が欲しかったのよ。ねえ、いいでしょう? お父さま」
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