過保護な執事の甘い夜

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 京極邸での仕事は、忙しくも大変にやり甲斐のあるものでした。  ご予定の管理はもちろんのこと、コックやハウスメイド、運転手への指示、奥様やお嬢様のサポートなど仕事は多岐に渡るのです。  ただ、私はホテルのコンシェルジュとして勤めていたおかげでしょうか、それほど苦もなく主人(あるじ)やお客様のご要望に対応出来ておりました。  それよりも、問題は私の心にございます。  執事としての職務を終え、邸宅の戸締まりをするまでの自由時間。さやかお嬢様は、その頃を見計らったように私の部屋を訪ねられるようになったのです。 「如何(いかが)なさいましたか、お嬢様」  ノックの音に、内心の喜びを隠しつつドアを開けると、眠れない子供のようにお嬢様が佇んでおられました。 「ねえ、立花さん。紅茶が飲みたいの。淹れてくださる? 」 「かしこまりました。お言葉ですがお嬢様、就寝時間も近いことですし、ノンカフェインのルイボスティーにいたしましょうか」 「それでいいわ」 「ではご用意いたしますので、お部屋でお待ちください」 「待って」  頬を膨らませた愛くるしい表情を見つめて首を傾げますと、深い色の瞳を潤ませ私を悩ませることを呟くのです。
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