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「立花、お願いがあるの」
「はい、お嬢様。何なりとお申しつけください」
何時になく真剣な面持ちの、それとは対照的にどこかそわそわと落ち着かない様子のお嬢様に疑問を抱きながら、私は頷きます。
「バレンタインデーってあるでしょう? 」
「ええ。ございますね」
「女性から好意を寄せる男性へ、チョコレートとともに想いを伝える日なのでしょう? 」
「さようでございます」
「私ね、立花。バレンタインデーにーー」
「ですが、庶民の戯れにございます。お嬢様が気にされる行事ではないかと存じますが」
私にとって不穏な空気を感じ取り、思わず言葉を遮ると、お嬢様は昔のように頬を膨らませてこちらを睨みます。
「わ・・・・・・私だって好きな人がいるのよ! その方へチョコレートを作って差し上げたいの。でもキッチンに立ったこともないし、どうすればいいかわからないのよ。だから、立花・・・・・・。私と一緒に作って欲しいの! 」
「私と・・・・・・ですか? 」
「ええ! ほら、前にトリュフショコラを作ってくれたでしょう? ほろ苦い甘さなのにとっても濃厚で。口の中でなめらかに溶けていって。ほんのりブランデーの味がしたわ。あんな大人の味がするチョコレートを・・・・・・ーー」
「お嬢様」
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