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しかし、気になるのは腰にガッツリ入った刺青。湯船に浸かりながらぼんやりと思い出す。なんか花っぽかったな。初対面だし、俺に全てを話す訳でもないだろう。俺だってマコに話していないことは沢山ある。知られたくない過去かも知れない。詮索するのはやめとこう。10分くらい湯船につかりながら物思いにふけっただろうか。風呂は好きなので出来ればもっと浸かっていたいが、他人の家の風呂なのでそうもいかない。俺は風呂を上がることにした。
脱衣カゴにはさっきまで着ていた服はなく、マコが用意してくれた部屋着のスウェットとバスタオルがあるだけだった。洗濯機が回っている。もしかして洗ってくれてるのだろうか。俺は体をサッと拭き、スウェットを着た。
普段スウェットを着ないので、なんだか違和感があった。違和感を解消するため四苦八苦。腕をまくってようやくその違和感は解消された。
違和感を解消した俺は、バスタオルと体を洗うタオルを持ってリビングのドアを開けた。マコはテレビを食い入るように見ていた。タクシーの運転手が車を残したまま行方不明になったと云うニュースが流れてる。
「ありがとう。かなり気持ちよかった。あんまり高級だからビックリしたよ。これ、俺が使ったタオル」
俺はタオルを差し出した。何故か俺の声はマコに届いていないようだった。
「かわいそうに…」
マコがボソッと言った。
「え?」
何のことだろうか。意味がわからず思わず声が漏れた。
「この運転手殺されてるよ。かわいそうに…」
まるで見てきたみたいな言い方をする。その表情はあからさまに暗かった。ニュースから流れる状況から考えて殺されててもおかしくはないのだろうが。
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