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と言いニコッと笑うと、女はドレスのままエプロンを付けて台所に行ってしまった。悪いよと言いながらも、俺は食べ物の事で頭がいっぱいになっていた。どうやらただのお人好しのようだし、警戒する必要もないと判断した俺はソファにズドンと座る。いくらマシになったと言っても、無理して歩いていた俺はクタクタだった。エアコンの涼しい風が心地よい。
辺りを見回すと、家具やテレビ、時計、全てが高級品に見えた。あの女は自分と同い年くらいに見えた。どれだけ金をもっているんだ。そう思うと羨ましく感じると同時に、なんだか妬ましくもなった。だが、そんな思いはすぐにかき消される事になる。なんともいい香りが、引き戸一枚挟んだ台所から漂ってきたのだ。さっきまで嫉妬でいっぱいだった俺の頭を、もう何が食べれるのかと云う想像が駆け巡っている。醤油の芳ばしい香りに、何かを煮ているのかグツグツと云う音が微かに聞こえる。どうやら料理が出来るというのは本当なのだろう。俺は期待に胸を膨らませた。
しばらくして、料理が運ばれてきた。メニューは煮込みハンバーグ、生姜焼き、味噌汁、サラダだった。ヨダレが止まらない。どれもここ最近食べていないものだった。いや、まともな食事自体が久しぶりだ。
「ハンバーグだけは冷凍ですが、煮込みソースはちゃんと作ったんですよ」
正直、冷凍でも何でも構わない。早く食べたい。
「いや、すごいよ!コレ全部食べていいのか!?」
俺は興奮している。ものすごく。
「どうぞ」
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