せっぱつまった勇者の事情

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「現在、この国の財政が逼迫しているのは知っています。ですが、財政工面などいくらでも方法はあります。それは――」  最初はうろんな目を向けていた貴族たちも、今では身を乗り出すように聴いている。  なりゆきで、勇者と呼ばれるようになってしまったが、勇者なんて実質は中間管理職だ。肩書だけは物凄く権威ありげだが、実権力はほぼ無きに等しい。数百年来空座になっていて、もう誰も本物の勇者を知らない。だからどう扱っていいのか、国も判断しかねているのかもしれない。そして、この世界に来て日が浅い俺には圧倒的に人脈が足りない。たとえ肩書を振りかざしたとしても、これだけはどうにもならない。  結果的に、位だけは高位だが、領主や貴族たちに対して勇者が下手にお願いするという形になっている。上にはややこしい権力者たちがわんさかいて、下からはやっかまれたり、盲目的に頼られたりという日々。しかも勇者に期待されるハードルはとてつもなく高い。常人に出来ない事が出来て当たり前。  ラノベのような都合の良いハーレム展開など皆無で、厄介ごとばかり押し付けられている。会社でも中間管理職だったが、俺は、たぶんずっとこんな感じなのだろう。  こっちの世界に飛ばされてから、なんとなく流されるまま生きてきたが、今決めた。 『仲間たちとほっこり、コタツで鍋をつつく』  うん。この目標って案外いいんじゃないか?   その為になら、平和な治世になるよう全力で手助けしますよ、領主さま。叶うなら、政治的なモノ抜きでお話ししたいですけど。  貴族たちを相手取ったプレゼンは、すでに終盤に差し掛かっていた。手ごたえは十分。  俺は、頭の中にコタツと鍋を思い浮かべながら、領主様に向かって小さくほほ笑みかけた。  この日を境に、王国の歴史は大きく動く事になるが、それはまた別のお話。
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