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第0章 現実
その寒さは身体に異様なまでの何かを感じさせていた.
冬の寒い日、普段と何一つ変わらず日常の波に流されていたあの年
一面、白銀の世界で感覚だけが現実を形作っていた。
やり場のない不安に少々の葛藤。
あまつさえ、こんな状況でも感覚の先にある何かを求めずにはいられなかった。
最初に気づいたのは、自分自身が呼吸という行為をごく自然なもののように扱っていたことである。
白い吐息を鈍い視野で見据えるようにして、そこから認識に至るまでの間、今の状況を整理しようとしていた。
自分でも「今」がいつなのかはわからない。
頭が鈍かった。鉛のような重さを身体の疲労という形で感じていた。
何かの本で読んだ事があった。
タイトルは人間の社会的地位における、日常的な怠惰である。
人間の疲労が極限に達するのは、個人を評価することで限界を作り、その上で限界の条件を定める。
それは無意識下で行われ、そこには人間的な怠惰が露呈する。(広く他人から見て判断することは容易ではない)
けれど認識が困難でも、意識するのができないということではないという如何にも稚拙な話だったのを、
淡い木漏れ日を覗くような気持ちで思い出していた。
しかし、今の状況が過去の記憶で改善されるはずもなく、それらは吸収し得たのみで、それ以上ではなかった。
ふと我にかえる。
状況は一刻をあらそう。
冗談めいた話を喫茶店で知りあいと話すように駄弁る必要はないのだ。
冬篭りした動物のように自分を取り繕う時間はない。
既成事実的な意味合いで述べる必要もないのだ。
人間という形の自尊心と威厳に満ちた態度を持った自身はいないのだから。
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