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5月中旬、あれから他の生徒は僕らに話しかけることはなく、平穏に過ごしている。
「一緒に帰ろ」
「うん」
僕は今日もこうして中村さんと一緒に帰る。
中村さんは公園へふらふらと入ると、深呼吸をした。
「まだ春だね」
「そりゃ5月だしね」
中村さんのおかしな発言に慣れつつある。
「青春ってさ、なんで青い春なんだろうね?」
「なんでって……うーん……」
そんな事考えた事もなかった僕は答えに困った。
「春って薄桃色とか黄色とかそういう色な感じしない?青って春の色っていうより夏の色だと思うんだよね」
「夏?なんでまた夏なのさ?」
「夏と言ったら海とか山でしょ?海は青いし、登山だって青空広がってやった方が楽しいでしょ?」
「確かに」
こうして理由を聞けば彼女の言ってる事にも納得できる。
「他にもさ、漢字とか。『涼』とか『氷』とか青系連想する漢字多いなーって」
「そんな事考えてもみなかった」
僕がそう言うと中村さんは得意げに笑った。
「でしょ?青春じゃなくて青夏って言えばいいのに……。うーん、寄り道これくらいでいっかな?帰ろっか」
中村さんがそう言って公園を出るのでついて行く。この時の彼女はどこか寂しげに見えた。
公園から僕の家は近く、すぐに家の前に着いた。
「それじゃまた」
「うん、またね」
こんな日々は夏休みまで続いた。夏休みになったらめっきり中村さんと会わなくなった。
近所に住んでるっていうのだから1度くらいあってもいいと思うけど、暑い中を少しばかり歩き回っても中村さんと会うことはなかった。
8月上旬の事、暑さは日に日に増すばかりで僕は冷房の効いた図書館へ行こうとスケッチブックと筆記用具、それと宿題をリュックに入れて玄関へ向かった。
靴を履こうと玄関に座ると母さんが手紙をいくつか持って入ってきた。
「あら孝汰、出かけるの?」
「うん、図書館行こうと思って。宿題やりに」
「感心感心。そうだ、これあんた宛に届いてたの。送り主の名前も切手も貼ってないのよね」
母さんはそう言って封筒を僕に寄越した。
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