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図書館から出て1分もしないで僕は止まった。奇跡的に中村さんがいた。というわけでもないが止まった。
中村さんは僕の家を知ってるけど僕は中村さんの家を知らない。
それだけならまだしも、彼女についての情報が少なすぎる。僕が中村さんについて知ってる事といえば家が僕の家を通り過ぎる所にある事、変な替え歌を歌う事、そして突拍子もない思考回路の持ち主である事。
この情報から中村さんの居場所なんて分かるわけもない。
心当たりというほどではないが1ヶ所だけ、なんとなく中村さんがいるんじゃないかと思える場所を思い出した。
そこにいなかったら図書館へ戻ろう。そんな事を考えながら僕は早足で目的地を目指した。
「ポッポッポー♪鳩ポッポー♪まーめはやらんがパンはやる♪」
目的地付近で聞き慣れた声と訳の分からない歌が聴こえてきた。
「中村さん……」
彼女は公園のベンチに腰掛け、パンを千切っては鳩達にバラまいていた。
「あ、山田くん。暑いね」
そう言う割には涼しげな表情だ。
「……何してるの?」
「残飯処理してもらってる」
「は?」
予想外の答えに腑抜けた声が出る。
「コロッケ食べたくてコンビニ行ったんだけどちょうど売り切れちゃってて。待ってるのもなんかアレだしコロッケパン買ったの」
言われて見れば中村さんが持ってるパンは切れ目の入ったコッペパンで、ソースが付着しているのが分かる。
「とりあえずさ、隣座ったら?」
中村さんは自分の隣をトントンと叩いた。
「じゃあお言葉に甘えて」
「ゆっくり来てね。鳩さん逃げちゃうから」
「うん」
僕は中村さんの言う通りゆっくり近づいて隣に座った。
「はい」
中村さんが僕に渡したのは半分になったソース付きのコッペパン。
「あ、どうも……」
彼女の様にコッペパンを小さく千切っては鳩の群れに投げた。するとそこに鳩が集中する。
初めてやるけど面白い。
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