中村さんと僕と

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「あ、中村さん。ありがとね、暑中見舞い」 僕がそう言うと中村さんは首を横に振った。 「ううん、こちらこそ暑中見舞い送れる様な関係になってくれてありがとう」 中村さんは素敵な笑顔と共に返しに困るお礼を言ってくれる。 「しかしこんな暑いのによくコロッケ食べたくなるよね」 「そう?」 彼女は可愛らしくこてん、と首を傾けた。 「こんな暑かったらアイスとか食べたくなるな、僕だったら」 たぶんこれは普通の意見なんじゃないかと思う。 「知ってる?夏の方がおでんって売れるらしいよ」 「へ?」 どうも中村さんといると腑抜けた声が出やすい。 「きっと冷房ガンガンかかったところで熱々おでん食べるの美味しいんだろうね。ほら、真冬のアイス的な」 「あぁ……」 ここでようやく中村さんが言いたいことが分かった。そしてコッペパンも無くなった。 「でも今はアイス食べたいかな、コロッケ食べたし」 中村さんはどこか遠くを見ながらぼやく。 「よし、山田くん!アイス食べよう、アイス!」 中村さんは急に立ち上がって叫ぶように言う。鳩達は一斉に逃げた。 「う、うんアイスね……。いいよ、行こうか」 「うん!」 中村さんはスキップしながらすぐ近くのコンビニへ向かう。僕はそれを早足で追いかけた。 「いらっしゃいませー」 コンビニに入るとお姉さんの挨拶と共に冷気が僕らを出迎えてくれた。 「ねぇ、あの子って……」 「うん、さっきのコロッケガール」 「じゃあ隣のは……」 「きっとメンチボーイ」 店員さん達はこちらをチラチラ見ながらそんな会話をする。 せめて聞こえないようにやって……。あとメンチとコロッケスタンバイしなくていいから……。 中村さんはそんなの気にしてる様子はなかった。 「あった、いちごみぞれ!あとはサイダー」 彼女には店員さんの会話が聞こえていないのか、鼻歌を歌いながらサイダーを探した。 「山田くんは何買うの?私的にはいちごみぞれとサイダーがオススメだよ」 中村さんは目をキラキラさせながら言う。 「うん、じゃあ僕もそれを買うよ」 ちょうどさっぱり系アイスと炭酸が欲しかった僕は中村さんと同じ商品を手に取った。
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