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「はやくはやくー!アイス溶けちゃう」
中村さんは無邪気に僕の手を引っ張りながら走る。
「ちょっと、どこに行くのー!?」
「いいところー!」
本当に中村さんは自由で予想外だ。
走る事数分、着いたのは……。
「廃墟……」
そこはこの街では有名な廃墟で、コンクリートで出来た3階建て。今じゃ塗装はほとんど剥がれて窓ガラスもすべて割れている。
昔は小さな会社だったけど経営が急激に悪化し、多額の借金を抱えた社長がここで娘と自殺したと言われている。
「山田くん、ぼーっとしてないで入ろ、入ろ!」
中村さんは何も知らないのか、グイグイと僕の手を引っ張る。
「中村さん、ここ……」
「変な都市伝説なんて気にしないのー!ほらはやくはやく」
……どうやら中村さんは知っていても関係ないようだ。
僕らは2階の窓際に来た。元はオフィスだったなんて信じられない光景が広がっている。
床も壁も天井もコンクリートが剥き出しで、カラーボックスや机が無造作に転がっている。
「うーん、ここにしよ」
中村さんはハの字に転がっているカラーボックスの片方に座った。
「ほら、山田くんも」
「う、うん……」
僕は彼女の向かい側に座り、リュックサックを隣に置いた。
中村さんは木のスプーンでかき氷を細かく砕いて食べ始める。
「んー、やっぱ夏はこれだねー」
中村さんはしみじみと言う。
僕もかき氷を細かくして食べる。ほのかな甘みが広がり、口内の温度が一気に下がる。
「久しぶりに食べたけど美味しい」
「うんうん、やっぱり夏の風物詩だしね。あ、全部食べちゃダメだからね?」
「え?なんで?」
「何のためのサイダーだと思ってるの?」
やっぱり中村さんはよく分からない。
「飲むためのサイダーじゃない?」
そう言いながら僕はサイダーを一口飲む。
すると中村さんはやれやれと言わんばかりに肩をすくめてみせる。
「いい?よく見てるんだよ、チミ」
何故か気取った口調で言うと、中村さんは勢いよくかき氷を食べ、僕に容器を見せた。かき氷はまだ半分ほど残っている。
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