中村さんと僕と

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「またね、か……」 廃墟を出た僕はぽつり、中村さんの言葉を繰り返して小さく笑った。僕にとって中村さんの「またね」は青春の音だったりする。 僕は再び汗をかきながら炎天下を歩き、近くのスーパーに行った。 玉ねぎの他にいちごみぞれとサイダーを買って帰った。 夜、僕は自室の窓を開けて風鈴の音を聞きながらいちごサイダーを食べた。 「夏の味だ」 誰に言うわけでもなく、そっと言った。 翌日、午前中から暑い。僕は昨日のようにリュックサックを背負って図書館へ行った。 空いてる席がないかとキョロキョロしていると意外な人がそこにいた。 「中村さん……」 彼女は振り返ると手招きをした。隣の席が空いていたのでそこに座る。 「山田くん、これ教えて」 中村さんが僕に見せたのは数学のプリントだった。 「うん、いいよ。途中までは僕もやってあるし」 「神様仏様山田くんありがとう」 中村さんは大げさに手を合せて言い、それがおかしくて僕は笑った。 それから僕が終わらせたところまではつきっきりで教え、僕もやっていないところはふたりでやった。 これで数学の宿題は終わった。 「山田くんのおかげでどうにかなったよ、またね」 「うん、また」 数学のプリントが終わると、中村さんは図書館から出ていってしまった。 僕はしばらくひとりで絵を描いていたがなんだか寂しくなって帰った。 それから夏休み中、僕は図書館に通って宿題を片付けに行き、時折中村さんを探しては駄弁った。 中村さんは大抵公園か廃墟にいることが多い。 夏休みが明けて始業式、また中村さんとふたりで帰る日々が始まった。 「一緒に帰ろ」 中村さんは1学期と変わらない言葉で僕を誘ってくれる。 「うん、帰ろうか」 夏休み中にも何回か会っていたのにすごく久しぶりな気がする。
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